Case Study Deep Dive

ConnectAI:
12,400人全社展開で
情報漏洩ゼロを実現した
組織設計

パナソニック コネクト株式会社 | 生成AI全社導入の実践知

戦略的インサイトレポート | Based on Panasonic Connect Public Data | 2026年2月
Executive Summary

ConnectAI導入3年間の定量成果

44.8万h
年間業務時間削減
(2024年度実績)
240万回
年間利用回数
(前年比1.7倍)
ZERO
情報漏洩・著作権侵害
(運用開始以来)
Key Insight

パナソニック コネクトは「禁止」ではなく「安全な代替手段の提供」でシャドーAIリスクを解消。セキュリティとイノベーションの二律背反を、組織設計で克服した日本製造業の最先端事例。

Source: Panasonic Connect Press Release (2024.06, 2025.07)
Agenda

01 | Why

なぜ全社AI導入が必要だったか
- シャドーAI問題と3つの導入目標

02 | How

どう実現したか
- 技術基盤・セキュリティ・ガバナンス

03 | What

何を達成したか
- 定量成果・進化のタイムライン

04 | Lessons

何を学べるか
- 成功要因・他社比較・教訓

01

Why

なぜ全社AI導入が必要だったか

シャドーAI問題: 見えないリスクの拡大
無秩序な外部AI利用
社員が個人アカウントでChatGPT等を業務利用。入力された機密情報がAIの学習データに取り込まれるリスク
IT部門の把握不能
誰が・いつ・何を入力したか追跡不可能。情報漏洩が起きても検知できない状態
「禁止」の限界
利用を禁止しても、利便性を知った社員は隠れて使い続ける。禁止はリスクを地下に潜らせるだけ
Panasonic Connect's Answer

「禁止」ではなく「安全な代替手段の提供」

シャドーAIを撲滅する最も効果的な方法は、公式ツールの利便性で外部AIを上回ること。

プロジェクト発足の先見性

2022年10月にプロジェクトキックオフ。ChatGPTが世に出て話題になる約1ヶ月前に開始という先手を打った判断。

ConnectAI導入の3つの戦略目標
01
業務生産性向上
全社員がAIを活用し、繰り返し作業・調査・文書作成にかかる時間を大幅に削減
KPI: 年間削減時間
02
社員のAIスキル向上
プロンプト設計・AI出力の検証能力・マルチモーダル活用スキルの全社的な底上げ
KPI: 月間アクティブ率
03
シャドーAIリスク軽減
外部生成AIの無秩序利用を公式ツールへ集約。情報漏洩・著作権侵害をゼロに
KPI: インシデント件数
Strategic Design

3目標を明確に定義したことで、新たなAIソリューション登場時も「導入すべきか」の判断基準が明確に。結果として無駄のない推進が可能になった。

02

How

どう実現したか

ConnectAI 進化のタイムライン
2022年10月
プロジェクトキックオフ
ChatGPT公開の1ヶ月前に先行開始
2023年2月
全社展開 (12,400人)
Azure OpenAI Service基盤で「ConnectGPT」運用開始
2023年6月
自社特化AIプロジェクト始動
公式情報連携・RAG技術の検証開始
2023年9月
RAG試験運用
約7,400ページの公開情報を対象に全社テスト
2024年4月
社外秘RAG運用開始
品質管理630件/11,743ページの社内文書を対象に展開
2024年6月
プロンプト添削機能
社員のAIスキル向上を支援するUI拡張
2024年度通期
44.8万時間削減達成
利用240万回、前年比2.4倍の効果
2025年
AIエージェント試験導入
経理・法務・マーケティング3領域で展開
2025年7月
ガイドブック一般公開
社内運用ノウハウを社外にも共有
Next
業務AI (Autonomous)
判断と実行を担う自律型AIへの移行
技術基盤: Azure OpenAI Service 閉域構成
ConnectAI Architecture
社員 (12,400人) - Microsoft Teams / Web UI
|
Azure OpenAI Service (閉域環境)
|
LLM: OpenAI / Google / Anthropic (3社マルチ)
|
RAG: 社内文書 11,743+ ページ
  • 閉域クラウド: 入力情報が外部AIの学習データに使われない構造
  • マルチLLM: OpenAI・Google・Anthropicの3社モデルを業務に応じて使い分け
  • コンテンツフィルタリング: Azure Responsible AIによる不適切出力の自動ブロック
  • 引用元表示: RAG回答には参照URLを併記し、正確性を利用者が検証可能
  • 既存IT基盤との統合: Microsoft 365エコシステム上に構築、追加認証不要
Source: Panasonic Connect / Microsoft News Center Japan
6つのリスクと対策: ガイドブック準拠
1. 情報漏洩
Azure閉域環境で入力データの外部流出を構造的に遮断。ログ監査体制も整備
2. 著作権侵害
出力結果の利用ルールを明文化。生成コンテンツの商用利用基準を策定
3. ハルシネーション
RAG回答に引用元URL表示。利用者自身による正確性判断をルール化
4. プロンプトインジェクション
Azure Responsible AIのフィルタリング機能と社内入力規約で防御
5. バイアス・倫理リスク
データ利活用支援チームが倫理レビューを実施。AI出力の最終判断は人間が担保
6. 過度な依存
AIは「補助ツール」であることを教育で徹底。最終判断は人間という原則を堅持
Governance Principle

「守り」のIT基盤を先に確立したからこそ、「攻め」のAI活用にアクセルを踏めた。セキュリティとイノベーションは二律背反ではなく、正しい順序の問題。

ガバナンス体制: 三位一体の推進組織

データ利活用支援チーム

AI技術・情報セキュリティ・業務設計の専門家で構成。ConnectAIの運用方針策定からユースケース支援まで一貫して担当

法務・知財部門

AI利活用ガイドラインの策定・改訂。著作権・個人情報保護法との整合性を確保

情報セキュリティ部門

年間60部門以上の内部監査。監査結果はCISOへ報告し、改善サイクルを回す

ガイドブック公開の戦略的意味

  • 対内: 社員への啓蒙・行動基準の明確化
  • 対外: 顧客からの問い合わせに対する説明コスト削減
  • 業界: 日本企業のAIガバナンスの先行事例として影響
  • 信頼: 「リスクを理解し管理している」企業姿勢の証明
3階建て改革構造: カルチャーが土台
3F
事業立地改革
新規ビジネスモデルの創出・AI特化ソリューション
2F
オペレーション改革
ConnectAIによる業務プロセス変革・44.8万時間削減
1F (Foundation)
カルチャー改革
経営トップから現場まで「挑戦する人を応援する文化」の浸透
Critical Success Factor

技術基盤(2F)やビジネスモデル(3F)の改革は、カルチャー改革(1F)という土台なしには成立しない。パナソニック コネクトはこの順序を徹底した。

03

What

何を達成したか

年次成長: 2.4倍の生産性向上
2.4x
削減時間の成長率
1.7x
利用回数の成長率
1.4x
1回あたり削減時間
+14.3pt
月間UU率の増加

1回あたり28分の削減は、AIへの「聞く」から「頼む」への活用高度化を反映

Source: Panasonic Connect Press Release (2025.07)
部門別アクティブユーザー率
Highlight

マーケティング部門71%という数値は、生成AIが一部の先進ユーザーだけでなく「日常業務の一部」として完全定着していることの証左。

特化AI展開状況

品質管理 ITサポート 人事研修 +7件公開 +16件検証中
Source: Panasonic Connect Press Release (2025.07)
「聞く」から「頼む」へ: AI活用の進化
Phase 1
聞く (Ask)
Phase 2
調べる (Research)
Phase 3
頼む (Delegate)
Phase 4
任せる (Autonomous)

Phase 1-2: 初期活用 (2023)

  • 専門用語の検索・翻訳
  • メールの下書き作成
  • 文章の要約
1回あたり約20分削減

Phase 3: 高度活用 (2024-2025)

  • コード全体の生成・リファクタリング
  • 作業手順書の作成
  • 資料レビュー・アンケート分析
  • 画像を含むマルチモーダル活用
1回あたり28分削減 (画像利用時36分)
RAG導入: 汎用AIから自社特化AIへ

汎用LLMだけでは自社固有の情報に回答できないという課題に対し、検索拡張生成(RAG)技術で社内文書を統合。

7,400+
公開情報ページ
11,743
社外秘文書ページ
630件
品質管理文書
7+16
特化AI (公開+検証中)

RAG対象領域の段階的拡大

Phase 1

Web公開情報 (3,700ページ + NR 495ページ + HP 3,200ページ)

Phase 2

品質管理 (社外秘: 630件 / 11,743ページ)

Phase 3

ITサポート・人事研修・カスタマーサポート等の全社展開

2025年戦略: AIエージェントへの進化

ナビゲーター型

ユーザーの意図を理解し、最適なツール・情報源へ誘導

ワークフロー型

定型業務の複数ステップを自動で連続実行

汎用型

非定型タスクにも柔軟に対応する自律型AI

先行試験3領域

領域用途
経理決裁作成支援
法務下請法チェック
マーケティングメール添削・分析
Evolution Path

汎用チャットAI → RAG特化AI → AIエージェント → 業務AI (Autonomous) という段階的進化が、リスクを管理しながらAI活用の深度を高めている。

グループ全体への波及: PX-AI 9万人展開
9万人
パナソニックグループ全体
PX-AI展開規模
5.3h/月
1人あたり月間削減時間
(グループ全体平均)

ConnectAI → PX-AI 横展開の構造

  • パナソニック コネクトが先行導入で知見を蓄積
  • ガイドブック・セキュリティ基準をグループ標準化
  • 各事業会社が独自のカスタマイズを追加
  • グループ全体で9万人が利用する規模に拡大
Scale Impact

ConnectAI単体の12,400人から、グループ全体9万人へ。1社の成功モデルがグループ標準になるという、大企業ならではの横展開力。

04

Lessons

何を学べるか

成功要因分析: 5つの鍵
1
先手のリスク対応 (禁止ではなく代替)
シャドーAIを禁止で抑え込まず、公式ツールの利便性で自然に集約。ChatGPT登場前にプロジェクトを開始した先見性。
2
守りの基盤を先に確立
閉域環境・ガイドライン・監査体制を整備してからアクセルを踏んだ。セキュリティは後付けではなく設計段階から組み込み。
3
カルチャー改革を土台に
経営トップ主導で「挑戦する人を応援する文化」を浸透。全社説明会に2,000人が参加する組織の熱量。
4
段階的な進化設計
汎用チャット → RAG特化 → エージェント → 自律型。一度に全部ではなく、段階的に深度を高めるアプローチ。
5
定量的な目標設定と計測
3つの明確な目標設定 + 削減時間・利用回数・UU率の継続的な計測。データドリブンな推進が成果を可視化。
他社比較: 日本企業の生成AI全社導入
企業 ツール名 展開規模 主要成果 特徴的アプローチ
パナソニック コネクト ConnectAI 12,400人 44.8万h/年削減 シャドーAI対策 + 3階建て改革
SMBC SMBC-GAI グループ全体 130万件RAG 4ヶ月構築 (開発数日 + ルール3.5ヶ月)
鹿島建設 Kajima ChatAI 2万人 海外14法人統合 禁止→代替構築の逆転劇 (3名開発)
三菱UFJ AI上司 4万人 22万h/月削減試算 500億円投資 (3年計画)
日清食品 NISSIN AI-chat 全社 30業務で活用 全国8拠点からPJメンバー招集
Differentiation

パナソニック コネクトの特徴は「カルチャー改革を土台にした組織設計」。技術基盤やルール整備は他社も実施しているが、全社員の行動変容まで設計している点で一歩先を行く。

日本企業が学ぶべき5つの教訓
01
禁止より代替
AI利用を禁止してもシャドーAIは止まらない。安全な代替手段の提供が最善策
02
守りが先、攻めは後
セキュリティ基盤の確立なくして全社展開なし。順序を間違えると信頼を失う
03
目標を3つに絞る
明確なKPI設定が判断基準になる。「何でもAI」は推進力を分散させる
04
段階的に深化
チャット → RAG → エージェント。一度に全てではなく、成功を積み重ねる
05
文化改革が根幹
ツール導入だけでは定着しない。経営層のコミットと挑戦を奨励する文化が不可欠
Final Insight

生成AI導入は「IT投資」ではなく「組織変革」。パナソニック コネクトの事例が証明するのは、テクノロジーではなく「人と組織のデザイン」が成否を分けるということ。

Key Takeaways
44.8万h
年間削減 (2.4x成長)
12,400人
全社展開 → 9万人へ
ZERO
情報漏洩インシデント

パナソニック コネクトのConnectAIは、「セキュリティとイノベーションの両立」が可能であることを実証した。その鍵は技術ではなく「組織設計」にある。カルチャー改革を土台に、段階的な技術深化と定量的な目標管理を組み合わせることで、12,400人規模の全社展開を情報漏洩ゼロで実現した。

出典・参考文献

[1] Panasonic Connect Press Release (2024.06) 「生成AI導入1年の実績と今後の活用構想」
[2] Panasonic Connect Press Release (2025.07) 「聞くから頼むへシフトしたAI活用で年間44.8万時間の削減を達成」
[3] Panasonic Connect (2023.06) 「ConnectAIを自社特化AIへと深化」
[4] Microsoft News Center Japan (2023.05) 「パナソニック コネクトがAIに全力投球する理由」
[5] Panasonic Connect 「生成AI利活用ガイドブック Ver.1.0」(一般公開版)
[6] Panasonic Connect (2023.02) 「Azure OpenAI Serviceを活用したAIアシスタントサービスを導入」
[7] Business Insider Japan (2024) 「パナソニック Cの生成AI導入から1年」
[8] Cloud Watch (2024) 「汎用から業務AIへ進化するパナソニック コネクトの生成AI活用」
[9] Agenda Note 「パナソニック コネクトが全社員1.3万人のAI導入に成功した3つの秘訣」

Strategic Insight Report | Based on Public Data | 2026年2月

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