レガシー金融システムの
AI近代化ロードマップ

地方銀行・保険会社の実例に基づく
段階的AI導入戦略ガイド

Based on BCG / McKinsey / 日本銀行 / 経済産業省の公的データ | 2026年2月

エグゼクティブサマリー

51%
日本のAI業務活用率
BCG調査 11カ国中最下位
12兆円
レガシー放置の年間損失リスク
経済産業省 DXレポート
90%
AI査定による時間削減
損保ジャパン 保険金査定
19,500h
年間業務削減効果
横浜銀行 融資稟議書AI

日本のAI活用率は世界最下位水準

BCG「AI at Work 2025」- 11カ国10,600人調査

トレーニング充足率

12% 日本 vs 36% 世界平均

シャドーAIリスク

企業がツール未提供 → 従業員が無断使用 → 情報漏洩リスク

BCG "AI at Work 2025" (2025年6月)

「2025年の壁」- レガシーシステム依存の実態

56.6%
レガシーシステム使用中の企業
IPA 2024年度調査
12兆円/年
放置した場合の経済損失
経産省 DXレポート
5,118億円
モダナイゼーション市場規模(2025)
デロイト CAGR 10%成長

COBOL依存の3大リスク

  • 技術者高齢化(50-60代中心)でブラックボックス化が加速
  • 保守コスト増大(メインフレームライセンス+人件費)
  • 移行失敗リスク(AI変換は100%正確ではない)

変化の兆し

  • 全銀システム脱COBOL(2027年予定)
  • 生成AIによるCOBOL解析・移行支援の台頭
  • COBOL PARK設立(SCSK+FPT 2025年3月)
IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」, 経済産業省「DXレポート」

金融機関が直面するレガシーの壁

人材枯渇
COBOL技術者の多くは50-60代。若手はモダン言語に集中し、技術継承が断絶
ブラックボックス化
設計書・仕様書が散逸。コードが唯一の設計情報で解読に膨大な時間
3
心理的障壁
「動いているシステムに触るな」- 移行によるシステム停止リスクへの恐怖
4
コスト圧迫
保守費用が増大し成長投資を圧迫。DXに回せる予算がない
IPA, @IT (2025年12月)

AI先進企業 vs 後進企業 - 拡大する格差

BCG調査(2025年9月)- AI導入レベルと経営指標の相関

1.7x
売上高成長率
先進企業 vs 後進企業
3.6x
3年間TSR
株主総利回り
1.6x
EBITマージン
営業利益率

示唆

AI導入は「コスト削減」から「競争優位の源泉」へ。導入を先延ばしにするほど、キャッチアップコストは指数関数的に増大する

BCG "AI at Scale 2025" (2025年9月)

マッキンゼー警告: AI活用の遅れは存続リスク

1,700億ドル
銀行が失うリスクのある利益
≒ 約26兆円(2025年10月 McKinsey)

リスクシナリオ

顧客がAIエージェントを活用 → 最適な金融商品を自動選択 → 銀行の低金利口座からの利ざやが消失

対応の方向性

自社サービスにAIを統合 → 顧客体験の差別化 → AIエージェント時代の競争力確保

McKinsey (2025年10月), Bloomberg
01

成功事例分析

地方銀行・保険会社のAI導入で実際に成果を上げた7社の取り組みを詳細に分析

成功事例マップ - 7社の取り組み一覧

企業名 業種 AI活用領域 主要効果
横浜銀行 地方銀行 融資稟議書AI・ボイスボット・不正検知 年19,500h削減
宮崎銀行 地方銀行 融資稟議書AI 40分→2-3分
京都銀行 地方銀行 生成AI文書検索 年8,000h削減
七十七銀行 地方銀行 55業務プロセスAI化 年32,000h削減
損保ジャパン/SOMPO 損害保険 AI査定・AIエージェント 査定時間90%減
住友生命 生命保険 AIロープレ・Vitality 好感触87%
第一生命 生命保険 AIチャット・AI-OCR 330h/日効率化

横浜銀行 - 融資稟議書AI

日本IBMと連携、生成AIによる融資審査業務の革新

横浜銀行(コンコルディアFG)
地銀最大手
19,500h/年
業務削減効果
8h/月
行員1人あたり削減

生成AIが融資先の財務データを分析し、稟議書のドラフトを自動生成。与信判断に必要な審査項目のヒアリング不足を明確化し、審査スキル向上にも貢献

2024年11月
日本IBMと実証実験開始
2025年1月
チャットボット形式で各支店に導入
2025年内
基幹システム統合判断
日本経済新聞 (2024年11月), IBM (2024年11月)

横浜銀行 - マルチAI活用戦略

AIエージェント型ボイスボット

地銀初

5種類の証明書発行を電話で自動受付。応対時間5割削減。繁忙期月1,600件の電話受付を自動化

AI不正・リスク検知

NEC協業

マネロン・特殊詐欺のモニタリング業務にAI活用。調査対象口座を30-40%削減

モビルス (2025年), NEC

宮崎銀行 - 融資稟議書の劇的短縮

IBMと共同開発、生成AIで審査業務を変革

宮崎銀行
IBM協業

Before

40分
稟議書作成時間(手作業)

After

2-3分
AI活用後の作成時間

融資審査の人手依存による遅延が常態化していた課題に対し、2024年4月から実装を進め、93-95%の時間短縮を実現

日本経済新聞, IBM

京都銀行 - 全従業員向け生成AI文書検索

8,000h
年間削減効果
見込み
4,300人
全従業員展開
2025年2月運用開始
AI
文書検索+回答
行内チャットボット

行内向けAIチャットボットに生成AIを活用した文書検索・回答機能を追加。内部規定・マニュアル・過去事例を即座に検索可能にし、窓口対応や事務処理のスピードを大幅に向上

日経 (2025年2月)

七十七銀行 - 東北最大の地銀によるDX戦略

Vision 2030の柱として生成AIを位置づけ

32,000h
年間工数削減
見込み
55
AI化された業務プロセス
従来の手作業をAI移行
NTT
NTT東日本と協業
セキュア環境構築

「Vision 2030」DX戦略の柱として生成AIを位置づけ。NTT東日本と共同でセキュアなAI実行環境を構築し、段階的に55の業務プロセスに生成AIを導入

七十七銀行

損保ジャパン - AI査定と3万人AIエージェント

国内最大規模のAIエージェント導入

90%
査定時間削減
画像解析AI
95%
火災保険自動化精度
AIエージェント Heylix
30,000人
AIエージェント導入
国内企業グループ最大規模
24/7
保険金支払い対応
休日・深夜も自動処理
日本経済新聞, SOMPOホールディングス (2025-2026)

損保ジャパン - AI活用の全体像

2020年
AI査定開始 - 車両損傷画像から修理費AI算出
2024年
保険規定AI解析 - 生成AIで補償範囲を瞬時判定
2025年
照会回答支援 - 全国営業店で生成AI利用開始
2026年
3万人AIエージェント全社展開、代理店評価AI(Palantir AIP)
損保ジャパン, SOMPOホールディングス

住友生命 - AIロールプレイングシステム

エクサウィザーズと共同開発、営業職員の育成を変革

住友生命
エクサウィザーズ協業

AIアバターがお客さま役を担い、営業職員とロールプレイング。伝えるべき情報を適切な順序で話せているかをAIが評価

2025年4月
新人層対象に運用開始
2025年12月
生成AI活用でレベルアップ(台本なし自由対話)

導入効果

  • スキルの標準化: 指導者のスキル格差を解消
  • 24時間トレーニング: いつでもロープレ可能
  • 臨機応変な対応力: 台本なし自由対話で実践力向上
  • 一連フロー訓練: ニーズ深掘り→アポイント取得まで

住友生命 - Vitality × AIアバター

87%
サービス提案に好感触
NTTドコモビジネスと共同実証
40%
魅力度が向上したと回答
Vitalityスマート試用者

GPT-4oとAIアバターを組み合わせ、パーソナライズドメッセージで運動・健康への関心度向上を検証。保険×ヘルスケア×AIの融合事例

住友生命, NTTドコモビジネス (2025年7月)

第一生命 - AIチャットと事務自動化

330h/日
業務効率化
1営業日あたり
73%
顧客満足度
ICHI-to-Chat利用者
40%
事務効率化
AI-OCR導入効果

ICHI-to-Chat

生成AI活用チャットサービス。LINE公式アカウントで24時間365日の顧客対応を実現。1,000万件以上の契約データからAIが最適な保険プランを提案

マルチAI-OCR

PFU「ABBYY FlexiCapture」活用。紙の書類業務を自動化。「今まで2人必要だった作業が1人で済む」レベルの効率化

第一生命, PFU

成功企業に共通する5つのパターン

1
小さく始めて大きく育てる
全社導入ではなく特定業務から。宮崎銀行は融資稟議書1業務から、京都銀行はチャットボットから段階拡大
2
外部パートナーとの協業
IBM、NEC、エクサウィザーズ、Palantir等。自社リソースだけで完結しない
3
経営トップのコミットメント
七十七銀行「Vision 2030」、SOMPOグループ全社AI戦略など、トップダウンの意思決定
4
既存業務の効率化から着手
いきなり新サービスではなく、稟議書作成・文書検索・電話対応など既存業務の改善から
5
定量的な効果測定
全社で「時間削減」「コスト削減」「精度向上」を数値化し、次のフェーズへの投資判断材料に

導入効果の定量比較

注: 第一生命の数値はAIチャットボットの1営業日あたり330時間 × 年間250営業日で試算。各社の集計対象範囲・算出方法は異なる点に留意

02

失敗パターンと課題

AI導入で成果が出ない企業に共通するアンチパターンと、金融機関特有の構造的課題

AI導入失敗の5大アンチパターン

1
ビッグバン刷新症候群
全システムを一度に置き換えようとして失敗。段階的移行なしのリスク集中
2
PoC止まり
実証実験は成功するが本番環境への展開で頓挫。組織の変革が伴わない
3
ベンダー丸投げ
自社に知見が蓄積されず、ベンダーロックイン。運用コストが膨張
4
現場不在の導入
経営層の号令だけで現場の業務フローを無視。利用率が上がらない
5
効果測定なき投資
KPI未設定のまま導入。「なんとなくAI」で終わり、次の投資判断ができない

COBOL移行失敗 - なぜ「AI変換」だけでは不十分か

AI変換の限界

  • 業務ロジック・ビジネス意図・歴史的仕様背景の理解は不可能
  • 金融・公共の複雑な例外処理は誤変換リスクが高い
  • AI変換は100%正確ではない
  • 最終品質担保には人間による「新旧対向テスト」が必須

成功する移行アプローチ

  • 生成AIでCOBOLコードの解析・ドキュメント化を先行
  • 段階的な機能単位での移行(ビッグバン禁止)
  • 新旧システム並行稼働で結果を比較検証
  • 「レガシーコードラボ」方式で次世代人材を育成(トヨタシステムズ事例)
IPA, @IT (2025年12月), トヨタシステムズ/IBM (2025年10月)

シャドーAIリスク - 企業が見落とす新たな脅威

12%
十分なAIトレーニングを受けた日本の労働者
世界平均 36%
?
シャドーAI利用率
企業把握外のAI利用(BCG警告)
企業がAIツールを提供しない
従業員が個人のChatGPT等を業務使用
機密情報がAIに入力される
情報漏洩リスク

対策: 3つの必須施策(BCG提言)

  • 1. 十分なトレーニングの提供
  • 2. 適切なAIツールの企業提供
  • 3. 経営リーダーの明確な支援と方針表明
BCG "AI at Work 2025"

「動いているシステムに触るな」- 心理的障壁の克服

変えない理由

  • 移行中のシステム停止リスク
  • 「今は安定している」という安心感
  • 移行失敗時の責任問題
  • 短期的コスト増への抵抗
VS

変えるべき理由

  • 保守コストの年々増大
  • 技術者退職による維持不能化
  • 競合他社のAI活用による差別化
  • 顧客体験の劣化(24/7対応不可等)
03

AI近代化ロードマップ

地方銀行・保険会社が実践できる段階的AI導入の具体的フレームワーク

Crawl - Walk - Run フレームワーク

BCG推奨の段階的AI導入アプローチ

Crawl(6-12ヶ月)
業務効率化AI
チャットボット、文書検索、OCR等の低リスク領域から
Walk(12-24ヶ月)
コア業務AI
融資審査支援、保険査定AI、リスク検知等の判断支援
Run(24ヶ月〜)
全社AI活用
AIエージェント全社展開、自律的業務遂行、新サービス創出

Crawl

京都銀行(文書検索)
第一生命(チャット)

Walk

横浜銀行(融資AI)
損保ジャパン(査定AI)

Run

SOMPO(3万人AIエージェント)

Phase 1: Crawl - 「まず動く」

低リスク・高効果の業務効率化から着手(6-12ヶ月)

導入リスク
既存業務の補助
即効性
数週間で効果実感
初期投資
SaaS活用で低コスト
施策対象業務期待効果参考事例
社内チャットボット規定・マニュアル検索問合せ対応50%削減京都銀行
AI-OCR帳票・書類の読取事務作業40%効率化第一生命
AIボイスボット電話受付の自動化応対時間50%削減横浜銀行

Phase 2: Walk - 「コア業務へ拡張」

判断支援・専門業務へのAI適用(12-24ヶ月)

導入リスク
業務ロジック理解が必要
ROI
大幅な工数削減
投資規模
カスタム開発含む
施策対象業務期待効果参考事例
融資稟議書AI融資審査の書類作成作成時間93%削減宮崎銀行
AI保険査定損害査定・保険金算出査定時間90%削減損保ジャパン
AI不正検知マネロン・詐欺検知調査対象30-40%削減横浜銀行
AIロープレ営業職員育成スキル標準化住友生命

Phase 3: Run - 「AI-First組織へ」

全社的AI活用と新サービス創出(24ヶ月〜)

変革レベル
組織文化の転換
最大
競争優位性
業界リーダーへ
投資規模
全社インフラ整備

目指す姿

  • 全社員がAIを日常ツールとして活用(SOMPO 3万人モデル)
  • AIエージェントによる自律的業務遂行
  • AI × 人間のハイブリッド意思決定
  • 顧客体験の根本的変革(24/7自動対応)

成功の鍵

  • 経営トップの強いコミットメント
  • 全社的なAIリテラシー教育(日本は12%→目標50%+)
  • セキュアなAI実行環境の整備
  • 段階的な成功体験の積み上げ(Phase 1-2の実績が基盤)

COBOL近代化のAI活用アプローチ

Step 1: AI解析
生成AIでCOBOLコードの設計書・仕様書を自動生成
明治安田: 工数25%削減
Step 2: 段階移行
機能単位で新システムへ移行
ビッグバン禁止
Step 3: 並行稼働
新旧システムを同時運用
結果を比較検証
Step 4: 完全移行
全機能の移行完了
旧システム廃止

市場規模

レガシーモダナイゼーション市場: 2025年5,118億円(CAGR 10%成長)。需要は今後も拡大

支援サービス

COBOL PARK(SCSK+FPT)、re:Modern(CTC)、レガシーコードラボ(トヨタシステムズ+IBM)等の専門サービスが続々登場

投資対効果の試算モデル

フェーズ初期投資年間効果回収期間リスク
Phase 1 (Crawl) 500-2,000万円 1,000-5,000万円 3-6ヶ月
Phase 2 (Walk) 2,000万-1億円 5,000万-3億円 6-18ヶ月
Phase 3 (Run) 1-10億円 3-20億円 12-36ヶ月

経営者向け実践チェックリスト

すぐ始めるべきこと

1
自社のAI活用現状を棚卸し
2
小規模PoCを1つ開始(チャットボット推奨)
3
AIリテラシー研修を全社展開
4
外部パートナー選定・契約
5
効果測定KPIの設定

避けるべきこと

1
ビッグバン型の全面刷新
2
ベンダー丸投げ(自社知見なし)
3
現場不在のトップダウン導入
4
効果測定なき「なんとなくAI」
5
「動いてるから触るな」思考

まとめ - レガシーからの脱却は「今」始める

Crawl
まず動く
低リスクな業務効率化から
Walk
コアへ拡張
融資・査定など判断支援へ
Run
AI-First組織
全社AIで競争優位確立
本レポートのデータソース: BCG "AI at Work 2025", McKinsey (2025), 日本銀行 金融システムレポート, 経済産業省 DXレポート, IPA, 各社プレスリリース・IR資料